型破りな人気商品「切腹最中」を生み出した『新正堂』が起こすイノベーション

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ご挨拶や謝罪の手土産に『切腹最中』、上場記念に『景気上昇最中』や『陣太鼓どら焼き』。ビジネスやプライベートのさまざまな場面でユーモアと“美味しさ”を届けてくれる和菓子の数々を生み出す100年企業が、大正元年(1912年)創業の新橋『新正堂』です。同社のユニークな商品はどのようにして生まれ、進化してきたのでしょうか? デザインの名門『桑沢デザイン研究所』出身という異色の経歴を持ち、『新正堂』の個性を体現するような明るい個性を備えた三代目ご当主、渡辺仁久さんに伺いました。

前編よりつづき~

『切腹最中』はあんこだけでなく皮にもこだわりが

林さん:後半では、『新正堂』の商品について詳しく伺っていければと思います。

渡辺さん:弊社自慢のあんこを多く召し上がっていただくため、パカッと開かれた形を指して『切腹最中』と名付けられました。通常、最中は40gぐらいなのですが、これは62gございます。型破りな名前や見た目から散々叱られましたが、そのインパクトが功を奏し、非常に人気商品となりました。忠臣蔵ファンの方に愛されているだけでなく、「最中が食べられなかったうちの子が食べられるようになった」という声もいただいております。

林さん:なるほど。

渡辺さん:皮にもこだわってありまして、私は口内でひっつきやすい最中の皮の性質が非常に嫌だったんです。なので当初、弊社では最中をつくるつもりはなかったのですが、皮の製造業者さんが「材料にこだわればパリッとくっつかないものが作れる」という。その分原価は上がるのですが、味を優先し、現在の『切腹最中』のご愛顧につながっています。じめっとしないよう工夫を凝らした弊社の最中の皮を使って金魚すくいをしたら、きっとたくさんすくえますよ(笑)。

何と本日は持ってきていただいてもいるんですよね。

ぜひ皮だけでも召し上がっていただきたいですね。水分を減らすことで同じ材料から製造できる個数は少なくなってしまうのですが、おかげで実現できたパリッとした食感は絶品です。

『切腹最中』はその商品名や形状だけでなく、製品開発のプロセスでもイノベーションを起こしていたということですね。

和菓子の常識を疑ってみたことが、成功につながりました。小豆の煮方を変えるなどというのは、とんでもないことでしたから。だからこそ、当時の職長にいただいた「うまいじゃねえか」という言葉はうれしかったですね。四代目になる私の息子曰く、修行先でもその方法を真似してもらい、売上につながったと聞いています。やっぱり、美味しいものは売れるんですよ。

桑沢デザイン研究所出身ならではのビジュアルインパクト

渡辺さんが桑沢デザイン研究所ご出身だからこそでしょうか。『切腹最中』はビジュアルインパクトも魅力のひとつですよね。

やはり私はデザイナーを目指していましたから、あちこちの和菓子の包装に興味があって見て回ったんです。すると、やはりメーカーの大量生産のための都合もあり、どこも似た形、似たデザインなんですよね。反対にもあいましたが、私の代からは自由にデザインを試行錯誤しています。たとえば、白から黒までのグラデーション、カラフルなグラデーションなどどうしたら美味しく見えるかと色を試行錯誤できたのは、デザインを勉強していて良かったことですね。

今流行りのイタリアスイーツ、マリトッツォにも似たフォルムですよね。

渡辺さん:マリトッツォの元祖だなんて言っています(笑)。ただ偶然一致しただけなのですが、結果的に面白がっていただけていますね。

『景気上昇最中』『出世の石段』『陣太鼓どら焼き』……コンセプチュアルな商品の数々

ほかの商品のイノベーションについても教えていただけますか?

『景気上昇最中』です。『切腹最中』とは反対に縁起のいい名称をと考えまして、当初は『景気回復最中』と名付ける予定でした。しかし、既に使われている商標と「景気回復」の部分が重複していてだめだということで『景気上昇最中』となりました。『切腹最中』のつぶあんに対しこちらはこしあんの商品で、「黒字転換」の願いを込めて黒糖をあんこに練りこんであります。黒糖の香り高さを大切にするため、波照間や喜界島のブロック黒糖を砕いて使っている、素材にもこだわった商品です。

『切腹最中』と同様、素材に向き合った商品なのですね。

渡辺さん:素材の良さを引き上げるということですね。粉砕済みで出荷される黒糖はこちらで砕く手間がいらず楽ですが、酸化して香りが飛んでしまうんですよ。『景気上昇最中』の黒糖は砕いて2時間以内に練りこんでいますから、非常にしっかり香りが味わえます。私は和菓子づくりにおいて香りを非常に大切にしていまして、最中も食べているときに口内や鼻腔に広がる香りが美味しさを演出すると考えています。「香りは味だ」ということですね。

林さん:名古屋の100年企業、『松屋コーヒー』でも確か同様のお話が……。

私も同じ話を伺ったことがあります。ほかに、麻布十番の老舗そば屋『更科堀井』のご当主にも、「そばだってそうだよ」と言っていただいてうれしかったですね。

コーヒーも挽いてしまうと酸化してしまうんですよね。

真空パックもいいかもしれませんが、やはり酸化を100%は防げないので、飲む直前に挽くのがベストですね。

これは発見ですね。『景気上昇最中』はコンセプトを先に立ててから、商品開発が進み、香り高い黒糖を入れるといいなどの“答え”にたどり着いた商品なのですね。

ほかに、日持ちのする商品を、ということで開発したのが『出世の石段』というサブレです。2カ月保存いただける商品でして、愛宕神社にご了承をいただき、表面には有名な「八十六段の出世の石段」をイメージした模様が刻まれています。立身出世につながる縁起物ということで3~4月によくお求めいただきますね。

愛宕神社は『新正堂』さんからもほど近い愛宕山山頂に位置します。そして、『出世の石段』は愛宕神社の長く続く有名な石段ですね。このエリアのお土産のような感覚でも皆さんご購入されるのでしょう。

つづいては、先代から続く『豆大福』です。一時は製造数も一日200個を割り込んだのですが、根強いファンも多く、すぐに売り切れてしまいますね。私の代であんこに改良を加え、より美味しくなりました。また、忠臣蔵の赤穂浪士にかけて、赤穂の塩を材料に使っています。日持ちさせるための保存料を加えていない、こだわりの商品です。

ちょうど先日、浅野家本家のおひざ元である竹原市に出向いておりました。浅野家は塩に造詣が深く、つくり方などを流通させていたそうです。そうしたご縁も『新正堂』さんとつながっていますね。

私は実は、兵庫県赤穂市の観光大使もさせていただいています。

すごいですね。『新正堂』さんの事業と忠臣蔵、渡辺さんの取り組み全てにコンセプチュアルなつながりを感じます。

渡辺さん:忠臣蔵に関連する弊社の商品には『陣太鼓どら焼き』もございます。こちらも弊社特製のあんこを用いており、『切腹最中』との「討ち入りセット」などでもみなさんに楽しんでいただいております。

企業上場の記念などでも使われているとお伺いしました。そういえば、渡辺さんのジャケットもぜひ皆さんにご覧いただきたいですね。

渡辺さん:さすが、お目が高い。この腕には四十七士の「47」、赤穂義士の「G」、「陣太鼓のマーク」、忠臣蔵はスターだということで「星のマーク」などのワッペンが縫い付けられているんです。そして、内側には「切腹最中 新正堂」の刻印も。さらにコロナ禍の間には、「『切腹最中』の顔はめパネル」もつくりました。こちら、自分の顔をはめたいというお客様が殺到し、持ち運びやすいよう見開きで立体になるバージョンもございます。また、お客様をお迎えする私の姿をかたどったぬいぐるみなどもあるんです。

最後に読者の皆さんへのメッセージをお願いいたします。

渡辺さん:ぜひ、これまでの常識を疑って変革にチャレンジしてください。失敗したら、もう一回やればいいんです。怖がらず、あえて変化に飛び込んでいきましょう。

伝統ある老舗でありながら型破り、多種多様なのにコンセプチュアル。『新正堂』の和菓子には、異なる要素を同居させる卓越したセンスと、商品開発にかけるこだわりが感じられます。だからこそ、ご挨拶や謝罪、あるいは日常などどんな場面にもどこかほっとするような彩りを与えてくれるのでしょう。

※この対談を動画で見たい方はコチラ


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