【第5回】着物ビギナーが頭を悩ませる「着物の格」とは?

コラム:女将と呼ばないで! 家紋 着物マナー 訪問着

息をするのも苦しい季節到来ですね!
毎年1週間だけ、港区内の女子高で浴衣の出張着付け講座のため浴衣で教壇に立っています。今年も先週から今週にかけて行われたのですが、教室中に立ち込める若者たちの熱気で、授業が終わるころには 毎回汗びっしょりです……。

限定的な季節とシチュエーションに合わせることが重要

そんな中、若者に浴衣の着付けを教えて毎年感じるのは、よく言われていることですが、洋服の時よりも断然みんな可愛く見えますね!ということ(笑)。中年目線ですいません……(笑)。花火大会などで、10代の子たちが浴衣を着ているのを見ると、つくづくそう思います。

それはきっと若くて元気というだけでなく、「夏×花火大会」という日本の「限定的な季節×シチュエーション(TPO)」に合いたる装いだからだと私は思うのです。この「限定的な季節」や「シチュエーション」に合った装いこそが、着物ビギナーにとって難題とされる「格」と関係してきます。今回のコラムでは、「キモノの季節と格」のうち、「格」とはなんぞやという事を、全くの素人から30代半ばで呉服屋を継いだ私の視点から、簡単にご説明させてもらえたらと思います!
「キモノの格」とは……その人を”与えられた場”でもっとも輝かせることができ、尚且つ、招いた人にも喜んでもらえること、それが着物のTPO=「格」の最も基本的な考え方です。
大切なポイントは「招いた人」など「自分ではなく相手を想う目線」が組み込まれているということです。このことを念頭に考えると、キモノの格も自然と理解できるのではないかと思います。

フォーマルとは、相手や場を思いやる気持ちを表現すること

ここからは、具体的にTPOに合った着物の選び方を、お伝えしていきます。
難しく考えると「着物を着よう!」という気持ちがしぼんでしまいますので、ここでは洋服と同じように、「カジュアル」と「フォーマル」に分けて考えていきましょう。
まずは「カジュアル着物」について。
基本的にその人が着たいものを着るべきだと私は考えます。前回のコラム「季節」の際に、夏の装いについてお話させていただきましたが、相手に「涼」を届けるため、実は着ている本人は多少、暑く感じているときも涼しい顔をして“やせ我慢”をしています。
ちょうど冬に毛皮のコートを着て、ショートパンツをはいたお嬢さんが、寒さを感じさせず、オシャレを貫いているのと同じように(笑)。
「絽」や「紗」の透けた素材を着るタイミングが少々早かろうが、たいした問題ではありません。要するに「季節に合いたる方が、よりオシャレ」とされているだけ。洋服でもこの考え方は同じだと思いますが、完全にその人それぞれの感性で決める部分です。
また、友達との食事会に自分一人が着物で参加するならば、少なくとも「キメ」過ぎないことが大事。そのためには紬や総柄の小紋を着る。カジュアルな着物の「TPO」は、そんな程度で十分だと思います。※総柄の小紋…全体に細かい模様が入った無地場の少ない着物。礼装・正装としての着用はあまりされない。

さて、一方「フォーマル」着物について。
まさに「招いた人」や「その場」を思いやる「思いやりの装い」とも言い換えられると思います。礼装・準礼装・正装と、フォーマルの中にもさらに詳細に分かれてゆくのが着物の面倒なところであり、頭を悩ませるところ。
ポイントは、結婚式や襲名パーティなど正装に近づくにつれて、半衿や帯締めなどの小物に「白」を取り入れること。また、訪問着や付下げといった華やかなパーティ着の着物においては、柄の付け方に規則性が現れたり、付ける「紋」の数が増えていったりするということ。フォーマルなドレスを着用する時と比べると考えられないくらいたくさんの「ルール」が存在します。
では、その「ルール」の中でも「紋」について、そのルーツを紐解いてみたいと思います。今では皆さんは自分の家の墓石でしか見ることができなくなってしまっている、それぞれの家の「家紋」。

大昔は戦の際に、武士が味方の大将に自分の働きをアピールするために付けたもの。大勢が入り乱れている戦場の中にあって、より大きくはっきりと「自分の家」を覚えてもらうための「目印」でした。そういった「ルーツ」から、男紋は女紋よりもより大きいそうです。
今では「戦」はなくなってしまったので、「勝負の場」=結婚式や襲名の場などに置き換わって、真剣さがより求められるシチュエーションになると、よりたくさんの紋(一つ紋・三つ紋・五つ紋)を付けて自分をアピールする。そういうイメージでとらえてもらえると分かりやすいと思います。

余談ですが、呉服屋をやっていると、お誂えいただく訪問着には一つ紋をつけることも多いのですが(写真上)、あまり紋自体を目立たせたくないお客様のご要望と、紋の「ルーツ」を知る紋入れ職人との間で板挟みになることがあります。職人曰く、「目立たない紋なんて紋じゃないモン!!笑」。と……。
着物の「ルール」と「ルーツ」お跡がよろしいようで。
お読みいただきありがとうございました。
2023年7月12日 丁子屋 小林絵里

小林絵里

小林絵里さん

丁子屋 6代目当主

この記事を書いたのは…

虎ノ門ヒルズビジネスタワー内1階店舗に突如あらわれる寛政十年創業の老舗呉服店「丁子屋」の六代目。2016年、オリックスグループなど全くの異業種から夫の稼業である呉服屋を継ぐことに。着付け師・キモノパーソナルカラーアナリスト。常識や固定概念に囚われない「次世代へ続く着物」を伝える。2020年~芝の老舗の会「百年会」常任理事。
趣味は「誰かを着付けること・コーディネートすること」とソロキャンプ。丁子屋ホームページ丁子屋インスタグラム

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