【お茶にまつわるマナー】美味しい入れ方、出し方、お茶をいただく際のマナー

『夏も近づく八十八夜』という歌い出しで知られる“茶摘(ちゃつみ)”の歌にあるように、八十八夜は新茶の季節です。そこで今回は新茶の季節に、マナーコンサルタントである西出ひろ子さんからお聞きした日本茶にまつわるマナーをご紹介。改めてお茶出しやお茶をいただくときのマナーを知り、おいしく日本茶を堪能しませんか?

八十八夜とは、立春から八十八日目の雑節のこと

“八十八夜”という言葉は聞いたことがあっても、その内容を具体的には知らない人も多いのではないでしょうか。

「八十八夜とは雑節のひとつで、立春から八十八日目という意味です。これは平年なら5月2日、うるう年は5月1日になります。“米”という字を分けると“八十八”になることから、昔から農作業を始める目安にもされてきました」(西出さん/以下同)。

ちなみに雑節とは、季節の変化をつかむための目安として、日本で補助的に作られた暦日。“節分” “彼岸” “社日” “八十八夜” “入梅” “半夏生” “土用” “二百日” “二百二十日” の9つが一般的に雑節と呼ばれています。

八十八夜を過ぎたら茶摘みの時季

では、八十八夜とお茶にはどんな関係があるのでしょう。

「昔から、八十八夜を過ぎると霜が降らなくなるため、種まきや茶摘みの時期とされてきました。また、“八十八夜”には末広がりの“八”が二つあることから縁起が良いとされ、八十八夜に摘み取られたお茶は、不老長寿の縁起物として重宝されてきました。これを“新茶”あるいは“一番茶”と呼び、これを飲むと一年を災いなく過ごせるともいわれています」。

その年の最初の新芽を摘み取ってつくった新茶(一番茶)は、渋みの原因となるカテキンが少なく、甘味・旨味の要因となるアミノ酸テアニンが豊富で、若葉の爽やかな香りが楽しめるのが特徴。ちなみに二番茶は、一番茶の摘採後に萌芽した芽を摘んで作られるカテキン豊富なお茶。そして二番茶の摘採から約1カ月後に摘採が行われるのが三番茶、そのさらに1カ月後に摘まれたのが秋冬番茶(四番茶)と呼ばれています。

少しの工夫で味が深まる、日本茶のおいしい入れ方

お茶を入れる手順

①沸騰したお湯を湯飲み茶わんに入れる。「湯飲み茶わんを温め、お茶を冷めにくくする意味があります。また沸騰した湯の温度を下げる目的もあります」。

②茶葉(一人当たりティースプーン2杯くらいが目安)を入れた急須に、①でいれたお湯を移す。「これによってさらにお湯の温度が下がり、日本茶の抽出にふさわしい約70℃の湯温になります。また、湯呑み茶碗に対して適量を急須に注ぐため、急須にお茶が残りません」。もちろん、①で入れたお湯は、茶こぼしなどに捨てる方法もあります。

③約40秒ほど抽出した後、急須を軽く2〜3回回して茶葉を開かせ、湯飲み茶わんに少しずつ均等にお茶を注ぐ。

④最後の一滴まで注ぎきる。「最後の一滴はゴールデンドロップともいわれます。この最後まで茶葉にまとわりついて残っている濃い抽出液は、お茶の香りや味わいに影響する大切な一滴なのです」。

工程②で触れた“茶こぼし”とは、その場でお茶を入れ替えたりする際に、残っているお茶や茶葉を入れるものです。建水ともいいます。

お茶を入れる際の湯温と蒸らす時間

次に、お茶の湯温と蒸らす時間について紹介しましょう。お茶は、お湯の温度によって、同じお茶でも味わいは変わります。またお湯の温度は、お茶の種類や品種、人の好みによってさまざまです。以下に挙げた、一般的におすすめのお湯の適温と浸す時間を参考にしてみてください。

⚫︎玉露:50~60℃/茶葉がゆっくり開くので2~3分待つ
⚫︎新茶:70~80℃/40秒
⚫︎深蒸し煎茶:80℃/30秒
⚫︎上級煎茶:80℃/30秒
⚫︎煎茶:70~90℃/2分
⚫︎玄米茶、ほうじ茶:98~100℃/30秒。長めにすると味が濃くなるので注意

お茶の知識を深めたら、誰かと一緒においしさを楽しみたいもの。次に、お茶でのおもてなしマナーを紹介します。

自宅でお客様を迎える際のお茶出しマナー

お客様をもてなす際の事前準備

「まず大切にしたいのは、相手に対する敬意として、心地よく過ごしてもらうための事前準備です。お茶を出す際に必要なものとしては、来客用の湯飲み茶わん。これは筒状のものではなく深さが浅いもので、蓋つきであれば最上級です。それから、湯飲み茶わんを乗せる茶托もあるといいでしょう。茶托はテーブルを汚さないようにするためや、お茶を提供するときに飲み口に手が触れないようにする意味などがあります」。

不意の来客に困らないよう、来客用の湯飲み茶わんと茶托は用意しておくと安心ですね。また、茶こぼしも用意していると安心です。

お茶請けには和菓子と黒文字も添える

お茶出しする際にはお茶請けも必要です。

「日本茶に対するお茶請けとして、和菓子を用意しておくと万全です。おすすめは、四季折々の植物や風物詩をかたどった練り切りや、春なら桜餅など、季節を感じさせるもの。また、和菓子に添える“黒文字(くろもじ)”と呼ばれるクロモジの枝を削ってつくられた楊枝があると完璧です」。

お茶を出す際の基本の流れ

来客に慣れていないとその場で焦って、スムーズに動きにくいもの。そこで、基本のお茶出しの流れを教えていただきました。

「お茶は、来客に座っていただいたら、なるべく早めにお出ししましょう。お湯は事前に沸かしておくとスムーズです」。

<準備しておく物>
⚫︎お盆
⚫︎茶托
⚫︎湯呑み茶碗
⚫︎ふきん
⚫︎茶葉
⚫︎茶こぼし
⚫︎熱湯入りポット

<手順>
①お盆にお茶の入った茶碗と茶托を分けて乗せ、お菓子はめいめいの皿に乗せておく。

②和室の場合は、お盆をいったん自分の脇(下座)に置く。洋室の場合は、サイドテーブルかテーブルの端にお盆を置く。そして、お客様の右側から、お客様の真正面にお菓子を両手で差し出す。「場所の問題で、前や横、左などからしか出せない場合は、『こちらから失礼します』とひと言添えてお出しすると良いですね。あなたの気持ちも伝わります」

③続いて、お盆の上で茶碗を茶托に乗せ、お茶菓子のやや右斜め上に両手を添えて出す。「これは、お客様がお菓子をとるときに、茶碗が邪魔にならないようにするためです」茶托に木目が付いている場合は、お客様に対して木目が横向きになるように置く。

「忘れがちですが、茶碗や茶托の向きは大切なことです。絵柄がついた茶碗なら、絵柄をお客様側に向けるようにしましょう」。

気をつけたいポイント

お茶を入れ替えるタイミングにも心遣いが大切です。湯飲み茶わんのお茶が少なくなってきたら注ぎ足しても良いです。注ぎ足し方は、用意している茶こぼしに、湯飲み茶わんに残っているお茶を入れ、その場に熱湯があれば前述の「お茶の入れ方」で入れます。急須の茶葉を新しくしたい場合は、それも茶こぼしに入れて、新しい茶葉を入れて注ぎ足します。その場での注ぎ足しを見られることに躊躇したり、その場に注ぎ足しの準備がない場合は、新たな湯呑み茶碗にお茶を入れ差し替えるとスマートです。この時、先に元の湯飲み茶わんと茶托をさげ、茶托の上にセットした新しい湯呑み茶わんを両手でお出しします。

一方、お茶そのものを替えることも考えましょう。

「日本茶の次は、コーヒーや紅茶なども勧めて選んでいただくと良いですね。その際、ホットかアイスのどちらがいいかも伺うと喜ばれます。また、夏なら、最初は冷たいお茶を、2杯目は温かいお茶にするなどの配慮も素敵です」。

また、迷ってしまうのが手土産をいただいた場合です。どうするのが正解でしょうか。

「ご自身でお茶菓子を用意しているなら、そちらを出しましょう。用意がない場合は、『おもたせで恐縮ですが』といっていただいた手土産をお出ししても失礼ではありません。“おもたせ”とは、お客様が持ってきてくださった手土産を指す敬語です。2杯目にコーヒーか紅茶を出すときに『おもたせですが』といって手土産を出すのもスマートでおすすめです」

来客が複数人いる場合は、上座に座っている人から出すのがマナー。上座とは、一般的にはドアやふすまなどの出入り口から最も遠いところと考えれば問題ありません。

会議や応接室への来客に。ビジネスシーンでのお茶出しのマナー

次に、会社での会議や応接室での来賓でお茶を出す際のマナーを紹介します。この場合、自宅での来客と異なる点はあるのでしょうか。

「基本は同じです。ビジネスが本来の目的ですが、会議室で出すのか、応接室で出すのかで少し違いがある程度です。応接室は大切なお客様をもてなす場所なので、蓋つきの湯飲み茶わんがあれば、それを出しましょう。お茶請けは必須ではないですが、応接室のお客様に出すことはあります。また、注ぎ足しはしません。新しく用意したものと差し替えるのがスマートです。」。

では、次にお茶出しの流れを、順を追って説明します。

会社でのお茶出しの流れ

①3回ノックし、「失礼します」と言って、お盆は左手に持ち、右手でドアを開けて入室する(利き手の状況で逆でもOK。落としたりこぼさないよう、やりやすい方の手で行うことが大切です)。お盆を運ぶ際は基本、両手で持つ。

②会釈して入室したら、サイドテーブルにお盆を置く。サイドテーブルがない場合は、下座側のテーブルの端に置く。その際、ひと言「失礼します」と声を掛ける。

③お盆の上で、茶托の上に湯呑を乗せ、上座に座っている来客から下座に座っている来客へ、次に上座に座っている自社の出席者から下座に座っている自社の出席者の順にお茶を出す。茶托を両手で持ち、相手の右後ろ側からお出しする。右後ろに回れない場合は、適宜「こちらから失礼します」と声を掛けて、左後方あるいは前や横からお出しする。ソファテーブルのように低いテーブルの場合はしゃがんでお出しする。お茶だけでなくお菓子も出す際は、お菓子を来客の正面に、お茶をその右斜め上に置く。

④お茶を出し終えたら、お盆を左脇に抱えるか、お盆の表側を自分の体にあてて両手で持つ。そして、ドアの前で皆の方を向いて会釈し、静かに退室する。

では、会社の来客の場合、お茶は入れ替えた方がいいのでしょうか。

「一般的な会議室での商談などであれば一度出したらそのままで大丈夫です。ただし、応接室にお通しした大切な来客の場合は15~30分で新しいお茶に差し替えたり、コーヒーか紅茶など違うものをお出ししたりします。前述の通り、会社では注ぎ足しはしません。ただし、コロナ禍もあり、現在はお茶を出さない企業が多いですね。ペットボトルで飲みものを出す会社も増えていますね」。

日本茶を飲むときのマナーと湯飲みの作法

では、ホスト側ではなく、来客として日本茶をいただくときに気をつけたいこととは?

「ふた付きの場合は、右手でふたのつまみを持ち、手前から奥に傾けながら開けます。開けたふたは両手で持ち、裏返して茶托の右上に挟みましょう。そうすることでふたが茶托に固定されて転がりません。飲み終わったら、両手でふたを持ち、湯飲みの上に戻しましょう」。

また、お茶請けが出た際は、お茶とお茶請けをいただく順番にも配慮したい点がありました。

「お茶が先といわれることもありますが、お茶は胃に負担がかかるので、お茶請けから食べてOKです。しかし、ホストや同行者が先にお茶を飲んだらそれに倣うことがマナーです。仮に、それは違う……と思っても、相手に合わせることもマナーなのです。マナーはその場にいる方々と心地よくスムーズに心を通わせ、良い関係を築くためにあるものです。相手に合わせる配慮は美しいと感じます。来客側は、失礼のないようになど何かと気をつかいますから、ホスト側がそれを察して誘導してあげることが大切ですね」。

ペットボトルで出す時、出された場合のマナー

「ペットボトルでお出しする場合は、紙ナプキンと紙コップを一緒に出すといいでしょう。注ぐ際にこぼしてしまっても、紙ナプキンがあれば先方も助かりますよね。紙コップがない場合は、女性にはストローがあると喜ばれます。紙ストローなら、環境に配慮している姿勢もうかがえて好印象ですね。また、冷たいペットボトルをお出しするときは、コースターの上に置くとテーブルに水滴が落ちず、書類などを汚すことを回避できますね」

「ホスト側が『よろしかったらお持ち帰りください』と声を掛けることが前提にありますね。自分からは言いにくいでしょう。もちろん、訪問側としてはホストから促されずとも持ち帰って問題はありません。このとき、『いただいて帰ってもよろしいでしょうか』とひと言伺うと意思疎通がスムーズです。反対にこちらが訪問する側でありペットボトルを置いて帰る場合は、最初から手をつけないようにしましょう」。

お茶を中心に、コミュニケーションを深めて

ひと言にお茶出しといっても、相手におもてなしの気持ちを伝えたり、より親睦を深めるきっかけにもなる大切なコミュニケーションツールといえます。相手に気持ちよく、楽しく過ごしてほしいという気持ちで準備し、おもてなしできれば、その気遣いが伝わり、関係性もより深まるはずです。これをきっかけに、楽しくお茶出しを極めてみませんか?

取材・文/手塚よしこ
イラスト/篠塚朋子

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