一本一本作り上げる職人技を継承する。日本で唯一の楊枝専門店『日本橋さるや』のこだわり

日本橋 楊枝 爪楊枝

楊枝といえば私たちにとって身近な商品です。しかし、あなたはクロモジの楊枝を使ったことがありますか? 日本唯一の楊枝専門店『日本橋さるや』は江戸時代から300年以上続く、日本の楊枝の歴史を体現するようなお店です。そんなさるやが大切にする「クロモジ」はどんな特性があるのか、また同社はさるや“ブランド”をどのように確立しているのか? 千両箱、辻占楊枝、お酒、名入れなどさまざまな商品・サービスのラインナップも紹介いただきつつ、日本橋さるや九代目山本亮太さんの想いや考えを伺いました。

日本橋“照降町”で1704年に創業、日本で唯一の楊枝専門店

早速自己紹介をお願いいたします。

山本亮太と申します。大学を出て株式会社インテリジェンス──現在のパーソルキャリア株式会社──に就職して社会人経験を積んだのちお店に戻り、2013年に店舗の移転に合わせて日本橋さるやの九代目に就任いたしました。

インテリジェンスさんではどのような仕事をされていたんですか?

就職して2年ほど求人情報誌の営業に携わり、その後は新人研修などに従事していました。

当時の経験が今に生きている部分もあるのでしょうか?

求人広告の営業はテレアポや飛び込みなどガッツが必要な場面が多いですから、「なんでもできる」という自信にはつながっていますね。

わたしも同じような経験をしているのでよくわかります(笑)。それでは、『日本橋さるや』のご紹介をお願いできますでしょうか?

履物問屋と雨傘問屋が両方存在することから別名“照降町(てりふりちょう)”と呼ばれる中央区日本橋小網町で宝永元年(1704)に創業した楊枝専門店です。現在は同じ日本橋の室町で営業しております。

『さるや』という屋号は何に由来するのでしょう?

猿は歯が白くて虫歯がないため、楊枝の看板として採用したという説と、猿を背にして楊枝をけずりながら売っていたという説の2つがございます。実際、楊枝づくりをしている背後に猿が描かれた浮世絵も多く存在します。

“看板犬”ならぬ“看板猿”ですね。しかし、1700年代からとは、非常に長くお店を続けられていますね。

かつて『さるや』と名乗る楊枝屋はたくさんあったそうなのですが、今残っているのは弊社だけです。うちも関東大震災で燃えてしまったのですが、伝え聞いた記録によると五代目の時にいろいろなイノベーションが生まれたそうです。ただ楊枝を売るだけでなく商品のバリエーションを増やし、お土産としての販売もするようになったのはそのときからだとか。

『日本橋さるや』は今日本で唯一の楊枝専門店ですからね。

楊枝の起源は約10万年前、さるやの「クロモジ」の持つさまざまな利点

ここからは『日本橋さるや』の商品である楊枝について詳しくお伺いできればと思います。

楊枝の起源は、歯をこすったような跡がついた化石によるとネアンデルタール人が跋扈していた約10万年前と推定されます。その後も、木やマグロの尾ひれなどさまざまな素材で楊枝が作られた証拠が見つかっています。日本にはヨーロッパから中国を経由し、仏具として入ってきました。しばらくは貴族や武士など身分の高い方が使うものでしたが、江戸時代に入り「房楊枝」が庶民の間にも普及したということです。

「房楊枝」とはどのようなものなのでしょうか?

両端づかいの楊枝でして、一端は叩いて繊維を出し「歯ブラシ」として、もう一端は尖らせて「歯間ブラシ」として使えるようになっています。歯のケアだけでなく化粧の用途にも用いられていたそうで、「房ブラシ」の歯ブラシの部分でお歯黒を塗った女性の浮世絵も残っています。

化粧道具としても用いられていたとは。

当時の楊枝屋を描いた浮世絵では、お茶屋として楊枝屋が栄えたさまが描かれています。看板娘を得て、風俗営業として繁栄を競っていたとか。全盛期には浅草寺の境内に300軒近くの楊枝屋があったとも聞いており、その普及ぶりが偲ばれます。

なるほど。

さるやの楊枝には「クロモジ」が使われているという特長があります。クロモジとは香りがよくて強度が高くへたりにくいクスノキ科の落葉灌木のことです。

昔の人は殺菌効果も期待して「クロモジ」をお口のケアに使っていたという話もありますよね。

その香りが気分を鎮めるということで、武士が戦帰りにクロモジを削っていたという話も伝え聞いています。

戦場から日常へ帰るにあたって、クロモジの香りでモードを切り替えるということですね。

現代ではクロモジのアロマなども出ています。そのリラックス効果は、昔から活用されていたんですね。

安定した品質の楊枝を生み出し続ける職人の技

クロモジの木自体はどこにでも生えておりまして、材料を取得した後は楊枝を削りだす工程に入ることになります。

細い木材をさらに削って尖らせるということで、非常に大変な工程ですよね。

今は職人の高齢化が非常に進んでおり、技の継承をするため私の父は今修行をしています。わたしも1本なら削ることはできるのですが、同じ品質で多くの本数を安定して生産するには非常に高度な技術が必要です。現役の職人は1時間でおよそ50本程度のペースで量産可能ですが、父はまだ3時間で20本程度しか生みだせません。

同じようなクオリティを保ちながら量産するのは非常に大変なことなのですね。

身だしなみのひとつとして「楊枝」が誕生したのは、なんと約10万年も昔のこと。そんな歴史を持つ楊枝を商品に、現在では日本唯一の楊枝専門店として知られるのが『日本橋さるや』です。そして楊枝を作り上げるのに必要なのは、職人による匠の技。『日本橋さるや』はそんな技術も継承しつづけています。

後編へ続く

※この対談を動画で見たい方はコチラ


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